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院長コラム

【No.5】乳がんに対する最近の手術について

 

乳がんに対する最近の手術について

私が医師になった約30年前には、乳がんに対する手術は大胸筋や小胸筋ごと乳腺を全摘出しリンパ節郭清もしっかりする拡大手術が標準術式でした。

その後、胸筋温存術式や乳腺部分切除術が主流となり、リンパ節郭清もセンチネルリンパ節生検が実施され、現在主流となっています。2013年からはインプラントによる乳房再建術に健康保険が適用されるようになり、部分切除が可能でも乳房再建のために全摘を選択するケースも増えつつあります。
ここでは最近の動向を含め解説しますね。

 

【乳がんの治療法】

乳がんの治療法は、「局所療法」と「全身療法」の2つに大きく分けられます。
「局所療法」:乳房に出来たがんを①除去する、あるいは②根絶する治療① は手術、②は放射線療法です。

「全身療法」:薬物療法

乳がんに対する治療は、これらの2つを組み合わせた集学的治療が基本です。すなわち、手術でがんを取り除き、検査では見えない小さながんに対して、局所は放射線療法で全身は薬物療法で治療するのです。現在は、乳がんの性質(サブタイプ)を調べて、患者さん毎に合った効果の高い治療法を選択します。また、以前は治療というとまず手術からスタートしましたが、現在では術前に薬物療法を行う場合も増えてきています。

 

【乳がんの手術療法】
手術には、がんとその周囲部分だけを切除する「乳房部分切除術」と、乳房全体を取る「乳房切除術」があります。がんの種類、しこりの大きさや広がり、進行度などによって術式を選択します。

「乳房部分切除術」では、術後に残った乳腺組織に放射線治療を行うのが基本です。この治療を「乳房温存療法」といいます。この放射線治療が必要な理由は、残った乳腺内に顕微鏡でも分からない程度のがんが残っている可能性があるためです。適切な放射線治療を部分切除に組み合わせることで、術後局所再発(乳房内再発)が防げることが証明されています。
・ステージ0, I, II期の乳がんに対する手術療法としては、乳房部分切除術が第一選択となります。その適用条件は、がんの大きさ「3cm以下」です。ただし、乳房の大きさには個人差がありますのであくまでも基準です。

また、がんが3cm以下でも、離れた場所に複数ある場合などには、部分切除は不適切です。妊娠中やその他の事情等で、術後放射線療法が受けられない場合も、乳房温存療法は適用不可です。

①がんの大きさが3cm以上、②術前薬物療法を行ってもがんが小さくならない、③離れた場所に多発している、④ステージIII期である、⑤ステージ0, I, II期でも広い範囲にがんが広がっている、などの場合には乳房切除術(乳房全摘)が適応になります。

また、局所再発が心配なケースや、乳がんの手術後に乳房再建を希望するケースにも「乳房切除術」が適応となります。乳房全摘後の局所再発率は低いので、多くの場合、術後に放射線治療を行うことはありません。

現在の乳房切除術は、大胸筋と小胸筋の両者を残す「胸筋温存乳房切除術」が一般的です。乳房全摘後の美容的な悩みを解消する方法として、「乳房再建術」があります。皮膚を残す「皮下乳腺全摘術」や皮膚と乳頭を温存する「乳頭乳輪温存皮下乳腺全摘術」などが各施設で行われています。

乳房の切除量で手術を縮小するだけでなく、リンパ節(特に腋窩(脇の下))の切除量を縮小する方法がセンチネルリンパ節生検です。不要なリンパ節郭清を回避するために、術前に明らかなリンパ節転移が確認されなかった患者さんを対象に「センチネルリンパ節生検」が行われるようになってきました。腋窩リンパ節のうち、乳がんが最初に転移するリンパ節をセンチネルリンパ節(見張りリンパ節)といいます。術中に色素やアイソトープ(放射性元素)を使ってセンチネルリンパ節を同定し、術中迅速病理検査で転移がなければ、それ以上のリンパ節切除を省略します。さらに最近では、センチネルリンパ節に転移があっても、一定の条件を満たす場合には腋窩リンパ節郭清を省略できると考えられています。

【術前薬物療法】

最近はがんを縮小させ、手術による切除量を減らし、低侵襲な手術を行う目的で、術前に薬物療法を行うようになっています。最初は乳房切除術が適応であったケースでも、薬が効いてがんが小さくなれば、乳房部分切除術が適応できます。また、手術が困難であると考えられた進行がんのケースでも、切除手術が可能になることがあります。

術前薬物療法は、数種類の抗がん剤を組み合わせて、外来通院で約6ケ月間行います。70~90%の患者さんでしこりが縮小します。生存率に関しては、同じ薬物療法を術前に行っても術後に行っても変わらないことが確認されています。将来的には、がんの消失が正確に画像診断できるようになれば、手術を省略することが出来るようになるかもしれません。(現時点では、がんが小さくなっても手術は必要であると考えられています)

術前薬物療法のメリットは、がんを小さくすること以外に、その患者さんの乳がんに効果のある薬物を確認できることにあります。反面、デメリットとして、効果がない場合には、手術前にさらにがんが大きくなってしまいます。

 

【乳房の再建】
再建方法には、①人工物(インプラント)を使う方法と②患者さん自身の組織を移植する方法があります。

① インプラント(シリコンジェルを充填した人工乳房)による再建
1回目の手術:大胸筋の下にエキスパンダー(乳房の皮膚を拡張するもの)を挿入し、数ケ月間かけて徐々に皮膚を伸ばしていきます。
2回目の手術:十分に皮膚が伸びたらインプラントと入れ替えます。

② 移植による再建
1回目の手術:腹部や背中から皮膚と脂肪を採取し、乳房を切除した胸に移植します。
2回目の手術:乳頭を再建します。

通常、乳房再建術は乳房全摘術を受けた患者さんに適用となります。乳房部分切除後の変形に対する再建は、可能な場合もありますが全摘後の再建より難しくなることがあります。また放射線治療後の乳房の皮膚は伸びが悪くなるため、エキスパンダーやインプラントなどを入れるのが難しくなり、美容的にもきれいになりにくくなります。

再建のタイミングは、1回目の再建を切除手術と同時に行う1期(同時)再建と、術後しばらくたってから行う2期再建があります。再建手術は乳腺外科と形成外科が協力して行います。

いずれにせよ、乳がんに対する集学的治療を行うためには、乳腺外科、形成外科(手術)・病理・放射線科(放射線治療)・腫瘍内科(薬物療法)など各専門領域の医師、薬剤師、看護師などの多職種からなるチーム医療が重要となります。

 

以上、乳がんに対する最近の手術について簡単に説明しました。
当院では、残念にも乳がんが発見された患者様に対して、大阪市立大学医学部附属病院 乳腺外科、大阪市立総合医療センター 乳腺外科、住友病院 乳腺外科などを中心に、患者様が希望される施設にご紹介し、適切な治療を受けて頂けるようサポートしています。術後、落ち着かれましたら、治療した病院と連携し、当院へ通院しながらの術後サポートも行っています。術後におきましても、みなさまの“乳腺の主治医”として関与していければ幸いです。